今回は、生まれ故郷の佐渡からお送りいたします。
佐渡出身といっても、物心ついた時にはすでに島を離れて暮らしていました。盆正月に帰省するだけの佐渡ヶ島という場所について、僕は今でもある種の物珍しさとか、未知への興味とか、そんな漠然とした気持ちを抱いています。
ブンガクをテーマに佐渡を巡ってみたいと思ったのは、つい最近のことです。柄にもなく、人生にわずかな余裕でも生まれてきたのでしょうか。何はともあれ、今回は島の玄関口である両津にて、ブンガク散歩を楽しんできました。
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佐渡汽船両津港ターミナルのすぐそばに、両津大橋があります。島に帰省した人たちの中には、港に迎え出た家族の車に乗せられ、この橋を渡ってそれぞれの生家に帰る人も多いと思います。
その両津大橋に立ち、両津湾を背にして加茂湖の方を眺めた景色です↓
湾から加茂湖に至るまで、両津大橋の他にあと2つ橋が架かっているのですが、その1つ目の橋がこちら、今回のブンガク散歩の目標である「両津欄干(りょうつらんかん)橋」です。
↑両津欄干橋にやって来ました。
対岸の建物(海上保安署)の向こうに、大きな松の木が見えますよね(1枚目の写真でも見えます)。あれが「村雨(むらさめ)の松」といって、昭和31年以来、新潟県指定天然記念物となっているクロマツの名木です。
「村雨の松」と命名したのは、明治時代の作家尾崎紅葉です。それ以前、江戸の頃はここに御番所があったことから、「御番所の松」と呼ばれていた――
――と、海上保安署前の碑文に書いてあります。
かつてこの町に「お松」という美しい女性が住んでいて、夜ごと欄干橋に立ち、町の男どもを誘惑していたといいます。非業の死を遂げたそのお松の泣き声が、夜になると「村雨の松」の木の近くで聞こえるという、佐渡の有名な伝説です。
恋多き女、お松。佐渡のカルメン。洗い髪を潮風にさらし、紅を薄く引いた口元で微笑し、なまめかしい、けれどもどこか虚ろな視線を、宵闇に浮かべていたのでしょうか。物書きとしても、男としても、はげしく想像をかきたてられます。
そんなことを考えながら欄干橋に立っていると、いつかこの伝説のリメイクを僕自身の手で書き上げてみたい、などと思ったりしたわけで――その時にこそ、僕の故郷の伝説「村雨の松」の全容を、皆さんに知って頂けたらと思うのです。
それでは、今回はこの辺で。
〈参考文献〉
●山本修巳 『かくれた佐渡の史跡』 新潟日報事業社, 平成8年新装版第一刷(p.6-7)
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●小山直嗣 『新潟県伝説集成 佐渡篇』 恒文社, 1996年第一版第一刷(p. 13-14)
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