キツめの一杯

前回の投稿でご紹介した中勘助『銀の匙』もそうですが、読んでいてほんわかと癒される文学作品が好きです。

#17 中勘助 『銀の匙』 ~こくこく読む~

心に栄養がじわりと染みる感じで、毎日読んでも飽きない、刺激がいたずらに多くなく体にやさしい自然食品みたいな物語が大好きです。

でも時には、強いのを一杯、欲しくなる夜もありますよね。

そこで久々に本棚から引っ張り出して読んだのが、トーマス・マン『トニオ・クレーゲル』『ヴェニスに死す』。新潮文庫版で二編とも一冊に収録されています。

トニオ・クレーゲル ヴェニスに死す(新潮文庫)
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両作品に共通するテーマは、ざっくりと言えば「芸術家とはどんな生き物か?」です。すなわち、芸術家はみんな孤独で、平凡な社会生活を送る一般人とは相容れぬ別種の生き物だという――それが真実か、単なる偏見かという議論はともかく――その苦悩を赤裸々に描いた物語なのです。

読んでいて、気持ちが晴れやかになる類の本とは少しちがうかもしれません。でも、生きてゆく上で目をそらしがちな物事が秘密めいた中毒性をもって読者に語り明かされることで、ある種の暗い快感を味わえたりもするのです。

芸術家という人間の内面を垣間見たい方、あるいは自ら芸術を志す人たちにとって、興味深い内容の作品ではないでしょうか。

足元がふらつくような、キツめの一杯。悪酔いするようで、心地よさも確かにある、そんな不思議な読後感に浸ってみませんか。

それでは、今日はこれにて。

 

僕にもツナガりました。

2016年初になりますが、新潟市美術館へ行ってきました。

今回は、企画展の「アナタにツナガル展 (2. 13~4. 10)」と、コレクション展の「悪い絵?展 (1. 22~4. 3)」を見てきました。

企画展では、「パン人間」のパフォーマンスで知られる折元立身さんの作品が印象的でした。特に、実のお母様を介護する日常のシーンをそのままアートの素材にするところには、衝撃を受けました。

映像作品に見入りながら、僕自身、将来自分の親をこんなふうな気持ちで介護できたら楽しいだろうな、などと思い、心がじんわりと温かくなりました。

その後続けて見たコレクション展「悪い絵?展」では、自分が最近見たり聞いたりして興味をもっていた作家の作品が思いのほか多くあって、うれしい驚きでした。

例えば、パウル・クレーのモザイク画。これは最近読んだ川端康成『古都』にその名が出てきましたし、また新潟市出身の洋画家・安宅安五郎によるルドンの「花」の模写は、これまで画集で何度も見ていて、今回ようやく実物を見ることができました。

まさに自分の想い・記憶に「ツナガル」ことのできた、すてきな展覧会でした。お近くの方は是非、足を運んでみてはいかがでしょうか。

企画展、コレクション展の日程はそれぞれ異なりますので、新潟市美術館のホームページで展示スケジュールを確認してみてくださいね。

それでは。