キーツの「聖アグネス祭前夜」を読んでみました。

先月まで新潟で開催されていたラファエル前派展では、ダニエル・マクリースの≪祈りの後のマデライン≫という素敵な絵との出会いがありました。

今回はその絵の題材となった、イギリスの詩人ジョン・キーツ(John Keats, 1795~1821)の聖アグネス祭前夜 (The Eve of St. Agnes)という物語詩を読んでみた感想など、書いておこうと思います。

(参考・出典:出口保夫訳 『キーツ全詩集 第二巻』 白凰社, 1974年第一刷, 「聖アグネスの前夜」より)

「アグネス」とは、四世紀初頭のローマにて殉教したキリスト教徒の少女の名です。詳しくは諸説あるようですが、ローマの長官(異教徒)の息子との結婚を拒んだことで恨みを買い処刑された少女アグネスの信仰心と純潔をたたえ、1月21日を「聖アグネス」の祝日と定めたというものです。

その祝日のイヴである1月20日の夜、少女が祈りをささげて眠りにつくと、夢の中で未来の夫に出逢えるという伝承があります。キーツの詩では、そのイヴの夜に祈りをささげる少女マデラインが登場します。

「(……)彼女の夕べの祈りは終わり、

飾りの輪の真珠を 髪からすべてはずし、

温められた宝石を ひとつずつ取りはずす。」

(前掲書 p. 120)

まさにこの場面(第26節の前半部分)が、マクリースの≪祈りの後のマデライン≫で描かれているところです。

亜麻色の長い巻き毛にからみついた真珠の珠飾りを、どこかもの憂げな表情でほどいてゆく絵の中のマデライン嬢の姿は、キーツの詩の雰囲気にぴたりと一致します。「温められた宝石」というキーツの表現、おくゆかしいエロティシズムを感じてしまいます。

「聖アグネス祭前夜」は、マデラインと彼女の恋人ポーフィローの恋物語です。互いに反目する両家、許されぬ恋に胸を焦がす若い二人といった設定に、『ロミオとジュリエット』を連想する方も多いと思います。両作品を比べて読んでみるのもおもしろいでしょうね。

新訳 ロミオとジュリエット (角川文庫)
(↑書名をタップ/クリックするとAmazonの商品ページにリンクできます。)

作品を読むにあたって注目したのが、禁断の恋にはある意味つきものの、「陰の協力者」です。『ロミオとジュリエット』にもいますよね――ネタバレは控えますが、僕は「聖アグネス祭前夜」に登場する「陰の協力者」の存在と、その人物の迎える結末が強く印象に残っています。

さて、そろそろくたびれてきたので今回はこれで失礼いたします。以下に研究社出版の商品リンクを載せておきますので、よろしければ読んでみてくださいね。

聖アグネス祭前夜ほか (小英文叢書)
(↑書名をタップ/クリックするとAmazonの商品ページにリンクできます。)

それでは。

 

ラファエル前派展を見てきました。

リバプール国立美術館所蔵の作品を集めた 『英国の夢 ラファエル前派展』 を見てきました。

今年2015年に開館30周年を迎えた新潟市美術館にて、7月19日のリニューアルオープンと同時に開催されていたラファエル前派展。新潟での展示はいよいよ9月23日で終了ということで、どうにかこの連休中に滑り込むことができました。

ラファエル前派展(新潟市美術館)

↑よく晴れた午後、≪いにしえの夢――浅瀬を渡るイサンブラス卿≫に迎えられ入館。作者のミレイ(John Everett Millais, 1829-1896)はラファエル前派主要メンバーの一人です。

ラファエル前派およびその周辺作家の作品は、絵のことがあまり詳しくない僕のような人間でも親しみやすいものが多いです。ざっくりと言えば、とにかくきれいです。

描写が緻密で、人物(主に女性)を描いた作品が多いのですが、その表情や衣服はもちろん、背景の細部にいたるまでストイックに向き合い描ききっている、という感じでしょうか。

人も、物も、自然も、分け隔てなく、とてつもない量の愛情を注いで描かれている――どの時代のどの絵も或いはそうなのかもしれませんが、単純にそう感じました。シェイクスピアやアーサー王伝説、ギリシア神話など、有名文学をモチーフにした作品も多数ありました。

ジョン・キーツの詩「聖アグネス祭前夜」を題材にした、マクリース(Daniel Maclise, 1806-1870)の≪祈りの後のマデライン≫が、個人的にいちばん良かったです。この絵だけ見るためにリピートしました。売店でポストカードも買いました。

新潟市美術館

楽しい時間はあっという間に過ぎ……閉館時間、外は日が暮れかけていました。もうすっかり秋です。

リニューアル以来初めての来館でしたが、その前は2014年の「洲之内徹と現代画廊」展の時におじゃましていました。あれからどこがどう変わったのか、記憶が無くてよく分からなかったのですが、プロフェッショナルな工夫が随所になされているらしいのです。

(新潟日報の文化欄 〈2015年9月16日, 朝刊〉 に、リニューアルについての詳細記事が載っていました。興味のある方はご参照ください。)

 

ラファエル前派展、10月3日からは名古屋市美術館で開催されるようですね。絵が好きな方は僕が言うまでもありませんが、文学が好きな方も楽しめるイベントだと思います。是非とも足を運んでみてはいかがでしょうか。

僕はこれから、キーツの詩を図書館で借りて読んでみます。うまく消化できれば後ほど記事にしたいなと思っています。

それでは、本日はこれにて。