「おすすめ文学 ~本たちとの出会い~」
前回と同じく、今回(第8回目)も地元新潟の作品をお届けします。ブンガクの地産地消です 。
『小川未明童話集 (ハルキ文庫)』
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#8 小川未明 『負傷した線路と月』 ~辛いのは君だけじゃない~
新潟県(現・上越市)に生まれた小川未明(1882~1961)は、日本のアンデルセンと称される童話作家です。未明は「みめい」と読むのが一般的のようですが、本来は「びめい」が正しい読み方となります(この筆名を授けたのは文学者・坪内逍遥です)。その名を冠した「小川未明文学賞」は、児童文学の新人作家の登竜門として広く知られています。過去に僕も童話めいた怪しい代物を書き送ったことがあります。結果は、言わずもがなです。
出典:『小川未明童話集』ハルキ文庫、2013年第一刷
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今回ご紹介する未明の童話 『負傷した線路と月』 は、機関車の通り道であるレールが主人公(のひとり)です。ある日レールは、重い荷物を載せた機関車が通った時に、からだを傷つけられてしまいます。
レールは、痛みに堪えられませんでした。そして泣いていました。自分ほど、不運なものがあるだろうか。
(p. 148)
そう嘆くレールですが、もとより人生、山あり谷ありです。どこまでも続く長い道のりの、ほんの一部分に傷がついた程度のことで己の不運を恨むレールは、はたから見れば弱っちい奴だと思われるかもしれません。
しかし普段のレールは、どんなに過酷な条件下でも文句ひとつ言わない働き者なのだということも読み取れます。ストレスを溜め込みがちな彼だからこそ、それ自体はほんの些細なことが引き金となって、ある日とつぜん鬱積した気持ちをどっさり吐き出してしまうわけです。
辛い時は、声に出して泣けばいいのです。じっと黙って耐え続けるばかりでは、ほとんどの人は気づいてもくれません。自分のためにも、周りのためにも、涙はきちんと流した方が良いこともあるのです。
と、レールが考えたかどうかはともかく、彼は近くに咲く花、通りがかった夕立の雨、そして夜空の月にむかって逐一自分の不遇を打ち明け、なぐさめてもらいます。さらには、自分を傷つけて黙って通り過ぎて行った機関車が今どこにいるのか、月に探してもらうことになるのですが……これは流石にちょっと甘え過ぎか。
さて、ここまで僕たち読者は、被害者のレールと加害者の機関車という視点に立って物語の表半分を見てきました。傷つき打ちのめされたレールに深く同情した月は、犯人である機関車をけんめいに探し回るのです。月の辿った道の先には、どんな事実が照らし出されるのでしょう。続きは是非、作品を読んでみてください。
もう一つ。さっき僕は「辛い時は、声に出して泣けばいい」と書きました。けれども、おすすめ文学で僕が毎回勝手につけているサブタイトルに込めた意味も、よろしければ頭の片隅にでも置いてみてください。もちろん、それは僕が皆さんのために敷いた作品鑑賞のレールではありません。
皆さんそれぞれ、ご自身の心にひろがる物語の風景を純粋に味わってくださることを祈りつつ、「おすすめ文学」はこれからものんびり各駅停車でまいります。
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