こんばんは。
前回の「おすすめ文学」ではフランスの作家モーパッサンを取り上げましたが、今回は僕自身が数年前に訪れたフランスについて、ちょっとした思い出話にお付き合いいただけたらと思います。
20代後半からずっと追い続けていた、作家になるという僕の夢。
そのスタート地点にようやく辿り着いた年――初めての自分の本を出版することができた、今から3年前の2012年のことです。かねてから、自分の処女作が世に出た暁には、どうしても行きたいと思っていた場所がありました。
それがこちら。パリ南部、芸術の中心地モンパルナスの大通り沿いにあるカフェ、「クロズリー・デ・リラ(La Closerie des Lilas)」です。
モンパルナスは、僕の大好きな作家アーネスト・ヘミングウェイゆかりの地です。作家として身を立てる決意を固めた若き日のヘミングウェイはこの街にアパートを借り、「クロズリー・デ・リラ」で執筆に励んだのです。
店は手入れの行き届いた植え込みに囲まれていて、通りからはその外観を見ることがほとんどできません。パリのあちこちで目にする典型的なオープン・カフェとは趣が異なり、昼間の喧騒のなかでも清閑な雰囲気が漂っていました。
開店時間の1時間前にモンパルナスに着いてしまったので、カフェからほど近くのリュクサンブール公園まで歩き、噴水を眺めていました。内心そわそわしながら、腕時計を何度も覗いていた記憶があります。
カフェに入ったらお店の人に言おうと準備していた、「ヘミングウェイの座っていた席に案内してください。」という意味(のつもり)のフランス語を心の中で繰り返し練習しながら――
いざ、「クロズリー」へ……(次回に続く)