前回の投稿でご紹介した中勘助の『銀の匙』もそうですが、読んでいてほんわかと癒される文学作品が好きです。
心に栄養がじわりと染みる感じで、毎日読んでも飽きない、刺激がいたずらに多くなく体にやさしい自然食品みたいな物語が大好きです。
でも時には、強いのを一杯、欲しくなる夜もありますよね。
そこで久々に本棚から引っ張り出して読んだのが、トーマス・マンの『トニオ・クレーゲル』と『ヴェニスに死す』。新潮文庫版で二編とも一冊に収録されています。
両作品に共通するテーマは、ざっくりと言えば「芸術家とはどんな生き物か?」です。すなわち、芸術家はみんな孤独で、平凡な社会生活を送る一般人とは相容れぬ別種の生き物だという――それが真実か、単なる偏見かという議論はともかく――その苦悩を赤裸々に描いた物語なのです。
読んでいて、気持ちが晴れやかになる類の本とは少しちがうかもしれません。でも、生きてゆく上で目をそらしがちな物事が秘密めいた中毒性をもって読者に語り明かされることで、ある種の暗い快感を味わえたりもするのです。
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芸術家という人間の内面を垣間見たい方、あるいは自ら芸術を志す人たちにとって、興味深い内容の作品ではないでしょうか。
足元がふらつくような、キツめの一杯。悪酔いするようで、心地よさも確かにある、そんな不思議な読後感に浸ってみませんか。
それでは、今日はこれにて。