上野歩さんの『探偵太宰治』

映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』が公開されました。僕も近々観に行く予定です。

さて、太宰治を描いた作品はこれまでにも数多く発表されていますが、よい機会なのでひとつご紹介したい作品があります。最新の映画と併せて、是非ともチェックしていただければと思います。

探偵太宰治 (文芸社文庫 NEO)
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『探偵太宰治』。2017年に発表された書き下ろしの長編小説で、著者は上野歩さん。ちなみに、僕の短編小説集の書評を書いてくださった方です。

主人公の津島修治(太宰治)が探偵となって事件の謎を解く話で、小山初代、檀一雄、井伏鱒二など実在の人物が数多く登場する、伝記的な要素とフィクションの要素が織り交ぜられている作品です。

子どもの時から人一倍感受性の強かった修治が、現実とあの世の境目である「あわいの館」を訪れるという不思議な能力(というか体質)に目覚め、そのことをきっかけにさまざまな怪事件に関わっていきます。

作中では、最初の妻初代との東京での生活、親友である檀一雄との関係などが伝記的事実に基づいて鮮やかに描かれていて、太宰ファンの心をくすぐるトリビアがいくつも散りばめられています(鮭缶に味の素を大量に振りかける太宰とか…)。

文士として身を立て、故郷の家族や妻に一人前と認められたいと願う20代の男の等身大のプライドと苦悩が率直に描かれています。僕も太宰という人は、実は潔癖なほど真面目な生活人で、意外と亭主関白な男だと思っていたので、この作品に描かれる太宰像が妙にリアルに、そして改めて身近に感じました。

太宰治にあまり詳しくない方などは、どこまでがフィクションでどこまでが事実か分からなくなるかもしれません(これって、実は太宰作品の本質でもあります)。それくらい綿密に取材され、太宰のエッセンスをさりげなく、かつ余すところなく再現しているのです。

もちろん、探偵としての太宰が遭遇した出来事などはフィクションです。檀一雄は助手のワトソン君といったところでしょうか(笑)。架空の探偵物語としても楽しめ、太宰の伝記としても読みやすく勉強になる、まさに一挙両得の一冊です。

新作映画の公開もあり、太宰ブームが再燃しそうなこの時期、読んでみてはいかがでしょうか。

それでは。

 

「上野歩さんの『探偵太宰治』」への2件のフィードバック

  1. 先生こんにちは、太宰治については、詳しくは知りませんが、作品
    よりも彼の実際の生き方が、すごく心に残りますね、時代的な背景
    も有ったり、子供も頃の環境だたっりとかもありますが人生最後の
    結末があのような形でした、あれが最初からの太宰治と言う人のあ
    りかただったのかなと思います、芥川龍之介や川端康成にも共通し
    所があるように思います、生きると言う事の意味が良く分からない
    と言うか、重視してないと言うか、最初からそう言うものなのかと
    か良く分かりませんが、3人とも作品よりもその生き方が、心に残
    ります。
    肌寒くなってきました、お体に気を付けてお過ごしください。

    1. コンナムルさん、こんにちは。
      太宰の半生(とくに二十代)が端的に分かる作品としては、「東京八景」などおすすめいたします。上野先生の「探偵太宰治」にも、この「東京八景」の内容がいくつも盛り込まれています。
      太宰や芥川は特にそうだと思いますが、作品と作者は切っても切れないものですね。書き手の立場としては少し迷惑だと思うのですが(笑)、読み手としては、気になる作家の実人生を詳しく知りたいという思いには共感できますね。
      コンナムルさんも、お身体に気をつけてお過ごしください。

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