『文芸しばた』第51号に詩「青の追想」が掲載されました。

『文芸しばた』に詩「青の追想」を掲載していただきました。運営委員会の皆さま、今年もありがとうございました。

文芸しばた第51号(表紙)

※『文芸しばた』とは? 初めてご紹介した時の記事もどうぞ。

「文芸しばた」 ~まちのみんなの文芸誌~

 

『文芸しばた』の詳細は、新潟県新発田市公式ホームぺージ
https://www.city.shibata.lg.jp/ をご覧ください。

※上記トップページの「総合メニュー」より、お手数ですがサイト内検索( 「文芸しばた」 )をお願いいたします。

小説よりも詩を書く時のほうが、自分に素直になれたりします。

自分でもよく分からない、けれども自分だけは分かってあげられる。そんな心地よい独りよがりのパラドックスに没入するには、物を語る世界はいささか他人の目を気にし過ぎてしまう。

誰かに読んでもらうことだけが、はたして創作の本分なのだろうか。「とても穏やかな一人きり」が、そこには確かに存在するのに。

そんな愚作を、地域の人たちの力作の中に加えていただけたことに後ろめたさをおぼえつつ、やはり感謝しかありません。

暖かくしてお過ごしください。

それでは。

 

#72 マッカラーズ 『木、石、雲』 ~追いかけているうちは辿り着けないもの~

「おすすめ文学 ~本たちとの出会い~」

第72回目。数奇な運命に誘われ、孤高の人生を味わう。そんな登場人物に静かに焦点を当てた物語は、良質な一杯のごとく、ひと時のほろ酔いを読者に提供することでしょう。スコッチウイスキーの名前に似ている、と思われた方もいるのでは?

マッカラーズ短篇集 (ちくま文庫 ま-55-1)
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#72 マッカラーズ『木、石、雲』 ~追いかけているうちは辿り着けないもの~

アメリカの作家カーソン・マッカラーズCarson McCullers. 1917-67)の短編「木、石、雲」をご紹介します。絶望の、その先に見出した「愛の科学」とは――シャーウッド・アンダーソンを思わせる孤独な人間への真摯な眼差しと、ヘミングウェイを彷彿とさせる硬質な文体を併せ持つ、個人的に大好きな要素の凝縮された作品です。

出典:カーソン・マッカラーズ作/ハーン小路恭子編訳・西田実訳 『マッカラーズ短篇集』 ちくま文庫,2023年第一刷

 

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雨の降る薄暗い早朝、新聞配達を終えた少年が、行きつけの酒場にコーヒーを飲みにやって来ます。いつもはなじみの客の誰かが彼に声をかけてくれるのですが、その日は店の雰囲気が何となくぎくしゃくしている。どうやらその原因は、一人の奇妙な客にあるようでした。

カウンターの隅でビールを飲んでいた、老齢のみすぼらしいその客は、さっそく少年に話しかけてきました。10年ほど前に自分を捨てた妻の写真を少年に見せながら、老人は「愛」について語り始めます。

「わしは、本当に愛するということのない人間だった」

(p.167)

そんな彼が、妻との出会いをどれほど運命的に感じたか、彼女が出て行った時のショックがいかばかりであったかを、初対面の子どもに滔々と話して聞かせます。そうして、最初は「妻を連れ戻すことしか考えていなかった」彼の心境に(p.170)、やがて大きな変化が訪れたと言うのです。

「気がついたら突然、わしが全国各地に妻をさがしまわっているのではなくて、妻のほうがわしの心の奥へ入りこんで、わしを追いかけはじめていたのだ!」

(p.171-2)

失ってしまったものを長く追い続けるあまり、老人の心は壊れてしまったのでしょうか。しかし彼はこれを愛の「科学」の始まりと呼び(p.172)、さらに「平和だ」と宣言します(p.173)。今では老人は妻のことを追い求めることはせず、心の中に、絶えずその存在を穏やかに受け容れる境地にたどり着いたのです。

「今ではその道をきわめた。(・・・)どうしたらよいか、考える必要ももうないのだ」

(p.175)

その後の彼は、妻だけでなく、すべての人、すべてのもの――木、石、雲(a tree, a rock, a cloud)にいたる万物を愛でるようになっていました。個から全へと昇華した老人の愛のかたちは、憎しみや悲しみの鎧を脱ぎ捨て、そしてまたいつの日か、全から個へと還っていくだろう……そのように言い残し、彼は静かに店を出て行くのです。

この作品を読むと、“I Guess Everything Reminds You of Something(何を見ても何かを思い出す)” というヘミングウェイの短編のタイトルを思い起こします。経験を重ねた人間なら誰もが分かっているように、あらゆる愛のかたちは過去の傷やあやまちの面影を色濃く映し出しながら、ようやく僕たちの心にその本質を現し始める、そんなところでしょうか。

酒場の主人や居合わせた客たちは、表面では老人のことをただの酔っ払いと小馬鹿にし、適当にあしらっているのですが、老人の説く「愛の科学」に実はきちんと理解と共感を示していることが、物語の端々にそれとなく描かれているのが印象的です。

目を背けたくなる現実を見つめ続けることで、気づくものがある。「あの人(老人)をいかれてると思う?」と不安げに尋ねる少年(p.177)に対する酒場の主人レオの態度に、僕は何だか救われます。詳細は、ぜひとも作品を読んで確かめてみてください。

カーソン・マッカラーズ「木、石、雲」、おすすめいたします。

それでは。

 


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