7年越しのサトウさん(1)

数年に一度の上梓。せっかくですので、作品完成に至った自分にとっての大切なエピソードを備忘録として書いておきます。

 

佐藤紫寿_絵描きのサトウさん_表紙
絵描きのサトウさん
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さて、この「絵描きのサトウさん」の発表についてご報告申し上げ、感謝の気持ちをお伝えしたかった方がいます。が、僕の不手際で今や直接ご連絡を差し上げる手段もなく、こうしてお名前を伏せての思い出話となってしまいます。

7年ほど前(2016年頃)、たった1冊本を出したきり5年近くも沈黙していた当時、ある出版社の編集者の方からお電話をいただきました。その方には、以後何か月にもわたって創作活動について相談にのっていただき、執筆の手法からプランニングに至るまで様々な専門的アドバイスをいただきました。

お電話をいただいた時は、形式的な営業のお話だと思っていました。出版社の主催する小説やエッセイのコンクールに応募したことをきっかけに、自費出版のキャンペーン案内などをいただくのはよくあることです。僕も悪い意味で慣れっこになっていて、お断りする際の対応もすっかりテンプレ化していました。

その方からの最初の連絡も、出版案内だったと思います。いつものように丁重に辞退を申し上げたところ――今はどんな作品を書いているのか、作品づくりで力になれることはないか、もしよければ作品を読ませてほしい――熱心な問いかけが、その時だけはお決まりの気まずい閑話に終始せず、それなら書きかけ(放置気味)の駄文でもよろしければ…ということで、メールのやり取りが始まりました。

他の出版社の方々とちがって特に好感が持てたとか、当初はそういった印象もなく(お許しください)、僕もすでに他人を簡単に受け入れることのできかねる年齢(笑)だったので、何故その方に限ってご縁をいただくことになったのか、そのきっかけは不明です。ただ言えることは、いつものいい加減な態度がその方に対しては憚られた、あの時の自分は間違っていなかったということです。

書きかけの短編を2つか3つお送りすると、その方から次のようなお返事が届きました――“お送りいただいたご著作を拝読いたしました。わたしは特に「絵描きのサトウさん」の世界にとても興味を持っています”

あの時はまだ構想の骨組みにうっすら肉付けした程度の試作短編だった「絵描きのサトウさん」、その完成のために力になりたいと、さっそく具体的なアドバイスをメールでびっしり書いて送ってくださり、こちらが気後れするほどの情熱を示されたのです。

一方で、こうして半ば強引に完成にこぎつけた作品が望まぬ自費出版の契約につながってしまうのでは、という月並みな疑念を抱いていた僕は、見限るなら相手にとっても早い方がよいわけで、先方には事前にそのことを率直に伝えていたと記憶しています。

しかしその方は、「急いで出版して販売成績が上がらない場合、道が断たれてしまう」と逆に釘をさした上で、自費出版よりも文学賞経由のルートを勧め、その方と二人三脚でブラッシュアップした作品を、僕が望むなら「他社の文学賞に応募するのもあり」と快諾してくださったのです。

結果的には先方に1円の利益すらもたらすこともできないまま、けれどもその方の数多くの貴重なアドバイスを大きな支えに、7年の歳月を経て「絵描きのサトウさん」は長編小説として発表されることになりました。

(長くなりそうなので、次回(2)に続きます)

 

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