禁断の果実

6月といえば、来る19日は太宰治を偲ぶ「桜桃忌」。

忌日名のもとになった短編「桜桃」は、読んだことのある方もたくさんいらっしゃると思います。

酒場で出された桜桃の実(さくらんぼ)を、「食べては種を吐き、食べては種を吐き、」……作中の印象的な描写ですが、そんなに不味そうに食べるなら止せばいいのにと思って読んだ、遠い昔を思い出します。

僕の生家の小さい庭にも桜桃の木があって、5月中旬あたりから点々と赤い実を付けます。

見た目はおいしそうなのですが、売っているものと比べて小さくて、酸っぱくて、味も香りもうすい。でも子どもの時は夢中になって背伸びして、取れるだけ取ってその場で食べました。一人さくらんぼ狩りです。

さくらんぼって、食べ始めると止まらなくなります。

皿に盛ったら盛っただけ、木になっていたらなっているだけ、食べては種を吐き、食べては種を吐き……美味いのか不味いのかも分からなくなって、それでも何かに憑かれたように延々と食べ続けてしまう。

忘我の境地へと誘う、禁断の果実。

でも高価だから、悟るほどに食べられないのが現実です(笑)。

今が旬のさくらんぼ、皆さんもいかがですか。食べる桜桃はお近くのスーパーへ、読む桜桃はこちら↓

桜桃
桜桃 (280円文庫)
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それでは、今日はこれにて。

 

電気毛布やめます。

先月までの大雪の日々が遠い昔のことに思えてしまうくらい、最近はずいぶんと暖かくなりましたね。

この冬は特に寒かったので、人にすすめられて電気毛布を使って寝ていました。これまで三十数年間、ほとんど使ったことがなかったのですが、すっかり気に入りました。

冷え込む夜ふけ。

布団にもぐりこんだ時の、肩から足先まで一瞬にして温もりに包まれる、あの神々しいまでの快楽が病みつきに。思わず「ほほぅ」と声が漏れます。

3月中旬になっても、高温モードでがんがんに温めてからでないと布団に入れない。そうして大抵は高温のまま寝落ちして、明け方に寝汗びっしょりで目が覚める、その繰り返しでした。

電気毛布といえば、この文学作品です。

眠れる美女 (新潮文庫)
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男の盛りをとうに過ぎた老人が、秘密の宿屋で若い娘と一つの布団で静かに過ごす話で、川端文学の十八番といえる頽廃的なエロティシズムがふんだんに描かれている作品です。

娘は強力な眠り薬を飲まされ、一糸まとわぬ姿で客の老人の隣で眠っています。朝になって老人が帰るまで、決して目を覚ますことはありません。

そうなると、冬場は風邪を引かないかが心配ですね。そこで、自分で布団をかけ直したり服を着たりできない女の子のために用意されているのが、電気毛布なのです。

この電気毛布、アメリカ製のダブルサイズで、スイッチが二つ付いているというスグレモノ。

これなら女の子の側はつけっぱなしにしておいて、老人の側を自分で入れたり切ったりできる。女の子が暑そうにしていたら「弱」にしてあげることもできるかもしれません(そこまでの機能があるかは作中では不明)。

しかしこんな眠りを長く続けていたら、やはり身体を壊すのではと不安になります。人間に本来備わっている保温機能みたいなものが失われていきそうで。

それでも、一度使うとやめられない。

ブンガクの影響か分かりませんが、電気毛布はなかなかに人を惑わす魔性のアイテムだなと思ってしまいます(笑)。

要するに、「弱」に落とすかスイッチ切ってから寝ればいいんです。それだけの話なのですが――今朝、僕は電気毛布をきれいに畳んで、押し入れにそっと仕舞いました(次の冬も使う気だな)。

春は、すぐそこに。

それでは。